22 新方式

 クラシックギターは1800年代後半にトーレスにより現在のボディ形状やファンブレイシングの基本が作られ、その後は新しい試みもあったが定着せず、百年以上はトーレスの基本形を大きく崩さず徐々に進化してきた。そして1980年頃からトーレスの設計理論を大きく変化させた新しい方式がいくつか開発され、それが徐々に認知されつつあり、アコースティックギターにも取り入れられている。代表的なものは、ラティスブレイシング方式(ワッフル構造)、ダブルトップ方式(ハニカム構造)、レイズドフィンガーボード方式(RF方式)の3つである。

・ラティスブレイシング方式:オーストラリアのGreg Smallman(グレッグ・スモールマン)が1980年頃に完成させたものである。
 弦の振動エネルギーによりトップが振動することで音は発生する。弦の振動エネルギーをいかに効率よくトップの振動に変換するかで、ギターの音の大きさや音質や表現力が決まる。音のためにはトップは極力振動しやすくできているほうが良い。トップが振動しやすいということは、より軽いほうが良い。しかし、トップにはもう1つの「弦の張力をささえる」という役割がある。このように、トップの2つの大きな役割、「音を発生する」と「弦の張力をささえる」は、「振動しやすいように軽く作る」と、「弦の張力に負けないように丈夫に作る」という、相反する条件をトップに要求するのである。このように軽く丈夫にするため、トップを極限まで薄く軽くし、トップのロウワーバウト(サウンドホールから下の部分)のみを振動部分としてそこを丈夫にするためカーボンで補強した超軽量のバルサ材で格子状のラティスブレイシングを施している。それ以外のトップのアッパーバウトとサイドやバックは極端に分厚く頑丈にして振動させないようにし、トップの振動を支える箱としている。また、バックに丸みを持たせてトップから生み出される音を反射させている。これにより大きな音量を得、ギター自身の重量も通常の1.5〜2倍近くになっている。

・ダブルトップ方式:ドイツのMatthias Dammann(マティアス・ダマン)とGernot Wagner(ゲルノット・ワグナー)が共同開発したものである。トップを軽く丈夫にするため、中空ハニカム構造の繊維を薄い木の板2枚ではさんで圧着し1枚の板のようにしたトップで作られている。ギタリストだったダマンが音量を求めて自分のために1990年頃、細い棒状の木を格子にして2枚の薄い板をはさんだトップ構造のギターを製作した。ダマンギターの木の格子は強度確保と軽量化に限度があったため、ワグナーがダマンの格子を、航空機などに使われている軽く強い特殊なノメックス繊維をハニカム構造にした物に変え、1995年にダブルトップ構造を完成させた。
 外から見ただけでは通常の1枚板のトップと見分けはつかない。この方式により強度を確保しつつトップの軽量化がはかられ、大きな音量が得られる。また、ダブルトップ構造はラティスブレイシング構造に比べてトップの力木を通常のギターと同じように、自由に組むことが出来、サイドとバックも通常のギターと変わらないため音作りの幅は広くなる。さらに2枚の薄い板の組み合わせを、「松・松」、「杉・杉」、「松・杉」、「杉・松」などと変えることにより、音作りの幅は広がる。ダマンとワグナーはそれぞれで自身のギターを製作しているが、ダマンギターはワグナーが製作したトップ材を使用する場合がある。

・レイズドフィンガーボード方式:RF方式とも言われる。アメリカのルシアーであるThomas Humphrey(トーマス・ハンフリー)が1985年に考案し、ミレニアムモデルとして発売したのが最初である。その後に多くの有名ギタリストがそのモデルを使用し、次第に他のルシアーもRF方式を採用するようになっていった。通常のギターの12フレット以上の指板はトップに直接接着されており、弦とトップはほぼ平行になっているが、RF方式は名前の通り指板が斜めに持ち上げられた形状をしているため12フレット以上のハイポジションが弾きやすく、弦とトップの角度がつくため弦の振動をトップに伝える効率が上がり、結果音量が増すと言われている。最近の傾向としてはハイフレットの弾きやすさよりも振動効率を重視し、弦とトップの角度のみがつくように少しだけ持ち上げたセミRF方式が多い。