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Greven OM-12F

 ボディとネックの接合部分が12フレット(12F)のところで接合されているものを12フレット接合という。クラシックギターはほとんどが12F接合である。アコースティックギターは多くが14F接合であるが、一部12F接合もある。

 アコギの12F接合には大きく分けて2種類ある。ひとつはクラシックギターやMartinの0-16NYのように、ボディのくびれから下の最も幅の広い部分であるロウワーバウトと呼ばれる中央にブリッジがあるもの、具体的にいうとサウンドホールの下の部分からボディの下の部分までのちょうど中央にブリッジがあるもの。(仮にこれを12F接合Aとする)もうひとつはMartinのD-28Sのように、ブリッジの位置などはほぼ14F接合モデルそのままで、ボディ上部を12Fまで伸ばしたもの、具体的にいうとサウンドホールの上の部分からボディの下の部分までの中央にブリッジがあり、12F接合Aよりブリッジの位置がサウンドホールに近いものである。(仮にこれを12F接合Bとする)

 このグレーベンは後者の12F接合Bパターンで、14F接合のOMギターのボディ上部をそのまま12Fまで伸ばしたものである。これは前者のパターンよりも音色的には14F接合のギターに近く、ボディ内の容量が増えた分14F接合のOMギターの音に中低音の厚みを加えたイメージの音になる。レスポンスやシャープさにはやや欠けるが、音に奥行きや丸みが増す。(詳しくは「アコースティックギターのうんちく」にある「17 接合フレット数」参照)

 神戸にあるアコースティックギター専門店のヒロ・コーポレーションに行ったとき、店主の冨田氏に女房とのユニット「ぽんにゃん」でのライブ使用のため、ストロークにもフィンガーにも対応できる唄伴奏に適した音量のあるギターを探して欲しいと言っておいたところ、数ヵ月後に「良いのが入った」と連絡があった。

 このギターは冨田氏が2001年ごろ、グレーベンに初めて12F接合のOMの作成を依頼して出来上がってきたギターである。しかし送られてきたギターはクラシックギターのような幅広ネックで(グレーベンには12F接合はクラシックギターのような幅広ネックという先入観があったらしい)、さらに、12F接合といっても普通のOMボディの上部をそのまま12フレットまで延長したシルエットで、音は非常に良いのに弾きにくいためなかなか売れなかったそうである。ちなみにこのギターの納品後、カッタウェイやネック幅やブリッジ位置なども入念に指定した本格的な12F接合Aのギターをグレーベンに依頼し、2002年5月に出来上がってきたギターが私の初グレーベンであった【No.14】のGreven OMマダガスカルローズウッドC12Fである。

 1年ほど経っても売れず、仕方ないので当時ヒロ・コーポレーションのオリジナルブランドであるフィールズギターを製作していた岡山のギター職人である松永氏がネックをはずし、削り直して幅を細くし、ブリッジも取り替えて最適なネック幅と弦幅のギターにリペアした、そのギターが出来上がってきたので連絡してくれたのである。ラッキーなことに、リペア品扱いのため通常価格よりもかなり安い価格で購入できた。

 この12F接合の特性に加え、トップが柔らかめのイングルマンスプルースのため、爆発的な音量はないが、いかにもグレーベンらしい深みのある優しい音色である。イングルマンスプルーストップのギターは音に暖かさが出る分、あまり前に出ず、ややこもった印象を与えるものが結構ある。しかしこのギターはサイドバックにキレのあるメイプルを使い、こもりがちになる丸く優しい音にシャープさを与え、倍音豊かで広がりのある音色にしているのはさすがグレーベンである。さらに高音から低音までのバランスが非常に秀逸で、出過ぎず引きすぎずの音色のためアルペジオの唄伴奏に最適である。また、ソフトなストロークにも威力を発揮する。いわゆるオールマイティなギターである。

 近年のグレーベンの音色はやや硬めの傾向があるため、以前のグレーベンらしい音色のこれは貴重品とも言える。女房とのユニットでのライブで使用している。

 2018年にM-Factoryのピックアップを装着し、メインのエレアコとなった。このピックアップ装着に関しての詳細は、「私のギター列伝」の「58 M-Factory 50 System(PM-50)」をご覧いただきたい。