36 The Fields(フィールズギター)000-SC

The Fields(フィールズギター) 000-SC

 The Fields(フィールズギター)は神戸のアコースティックギター専門店ヒロ・コーポレーションがプロデュースするオリジナルブランドである。ヒロ・コーポレーションは冨田洋司氏が1975年JR神戸駅前に開店した老舗のギターショップで、MartinやGibsonなどのヴィンテージを扱うほか、当時としてはまだ珍しいアメリカの個人製作家の手工アコギも同時に扱っていた。吉田次郎、中川イサト、押尾コータロー、岡崎倫典、小松原俊などのトップギタリストが立ち寄る全国屈指のショップで、ソモギやグレーベンを日本に初めて紹介し、広めたのも冨田氏である。(私は1976年から78年あたりまで、三ノ宮や元町の楽器店には良く行っていたが、神戸駅前のヒロ・コーポレーションの事は全く知らなかった)

 自社ブランドであるThe Fieldsは79年から始まったが最初はフラットマンドリンであった。81年頃からギターの製作を開始、当初は岡山県在住のギタールシアーである松永仁一郎氏が製作を担当していた。この初期フィールズギターは97年頃までで40本ほどを作り一旦休止。2006年神戸の古民家を改造して自宅兼ギター工房とし、ルシアーの田井亮吉氏を製作家に迎えて新生フィールズを復活させた。20年以上前の初期フィールズ時代から購入し自然乾燥していた材を使用、今では入手不可能である貴重な素晴らしいブラジリアンローズウッド(ハカランダ)やホンジュラスマホガニー、ジャーマンスプルースなど、多くの良材を備蓄している。今までのソモギやグレーベンとのやり取りの中で培った理論やノウハウを設計に生かし、ラティスブレイシングを中心とした設計を採用している。年間十数本ほどしか製作せず、工作制度の髙さや演奏のしやすさ、レスポンスの良さは世界第1級レベルである。復活後すぐにオーダーは3年待ちとなった。

 新生フィールズのスタートから2年ほどたった2008年5月に発注した。メインギターのソモギMDマートルとかぶらぬよう000ボディでショートスケール、トップはジャーマンスプルースでシェラック塗装、サイドバックは最上級のブラジリアンローズウッド、ホンジュラスマホガニーの1本ネックでカッタウェイという仕様にした。それから3年半後に仕上がってきたが、指定していたポジションマークとは違うデザインで上がってきて修正してもらうというアクシデントもあり更に2ヶ月かかった…。

 ハカランダで14フレット接合の手工ギターの場合、音は硬めの傾向にあるものが比較的多いが、これは硬すぎず、レスポンスは最高で分離も良いため早いフレーズも難なくこなす。レスポンスが良すぎるため、ストレートでやや深さも欲しいが音の丸さもある。どの弦、どのポジションでも変わらぬ音質はすばらしく世界最高峰レベルである。倍音はやや少なめだが音の芯は太くフラットピッキングでの単音ソロでも威力を発揮する。まさに、私のメインギターであるソモギMDマートルがやや苦手とする分野を得意とし、トータルバランスの優れたギターである。

 さらに特筆すべきは演奏性の良さである。ギリギリまで低くセットされた弦高とネック・フレット・指板の仕上げは素晴らしい。弾き易さに関しては私にとってベストの状態である。購入後3年経った2015年2月に調整に出した。当初からナットの具合にやや不安があり、2弦開放の音がほんの少しだけつまることと、3弦のナット溝がやや低く、解放がわずかにビビリ気味だった。非常に高次元での微細な問題点だったので様子を見ていたが解消されなかったのでナットを交換してもらった。これにより、問題点はすべて解消した。