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Santa Cruz H7

 同窓会でギターの立奏をすることになり、ギターストラップを見ようと大阪三木楽器梅田店に入ると、非常に興味をそそるギターが目に入った。なかなか出ない超初期(1980年製)のセンター分けヘッドのサンタクルーズで、ボディはGibsonのニック・ルーカス型、小ぶりだが胴の厚みがありバランスの良い音がしそうである。しかも、私が今まで所有したことがないハワイアンコアのサイドバックで、良く見ると何と非常に珍しい13フレット接合である。

 値段を見てさらに驚いた、現中古価格相場よりかなり安いのである。簡単に試奏させてもらったら、予想通りパワフルでバランスも良く、レスポンスが良いのにマイルドな音で、弦圧も私好みの小さめ、私の所有している物にはない独特の味を持つギターである。ただ、1弦の弦高が低すぎで12フレットあたりがややビビリ気味のためサドルの交換が必要かもしれない。値段が安いのは、タバコのにおいが染みついているのと、ヘッドの裏側が割れているためだそうで、きちんと修理はされており音にも演奏性にも全く影響がなく、他は三十数年経っている割には非常に綺麗である。においとヘッド裏の割れで大幅に安くなっているのはむしろ大歓迎である。他に用事があったため時間がなく、1弦のことなどの気になった点を伝えて、用事終わりにじっくりと弾かせてくれということでホールドして一旦店を出た。

 用事を済ませ数時間後に再び楽器店に行くと、そこには何とサドルを新規に作成し交換され、ネック調整もされたギターが待っており、弦高が少し上がったためパワーが少し増し、低音から高音までさらに元気に鳴っている。指弾きでもピックストロークでも十分対応できる。文句の付け所がなくなったので、即決購入してしまった。ちなみに、良いギターに出会えたという嬉しさで当初の目的のギターストラップのことは忘れていた。

 サンタクルーズは1976年にリチャード・フーバー、ブルース・ロス、ウイル・デイヴィスの3人が会社を作り手工ギター製作を始めたメーカーである。このギターは、79年にウイル・デイビスが退社後すぐの80年製で、フーバーとロスが二人でコツコツと作っていた時の手工作品である。この頃のボディトップ裏には、リチャード・フーヴァーの芸名であるOtis.B.Rodeoとブルース・ロスの二人のサインが入っており、80年代初期の二人の連名サイン時代のサンタクルーズは黄金期と言われ、音などの評価も高く、生産本数も少なかったためなかなか市場に出てこない。サウンドホールから内視鏡を入れてトップの裏を見ると、下の写真のように確かに二人のサインが入っていた。

 家でじっくり眺めてみると、小規模時代の手作り感あふれる素晴らしい作り込みである。初期のものは通称センター分けヘッドと言われるヘッドデザインで、良く似ているとGibsonからクレームがあり、1986年からは七三分けヘッドに変わった。現在のサンタクルーズはリチャード・フーバーが何名かの職人を使って製作しており、テイラー,コリングスとともにアメリカ新3大アコースティックギターメーカーと言われている。ちなみに、アメリカ旧3大メーカーはMartin、Gibson、Guildである。

 このギターの特徴である13フレット接合は製作例が非常に少なく、私も今までに数本しか弾いたことがない。ある雑誌でリチャード・フーバーがサンタクルーズの13フレット接合について「スモールボディだが、ロングスケールにしたかったので13フレット接合にした」と述べていた。つまり、スモールボディの特性を生かすにはロウワーバウトの中央部分にブリッジが来る12フレット接合がいい、しかし彼が思うベストの位置にブリッジが来るためにはショートスケールにする必要があった。ただ、ショートスケールの12フレット接合は指弾きのニュアンスは非常に良く出せるが、ピックでのストロークやタイトなピッキングにはやや不向きである。そのため、指弾きでもピック弾きでも良好なサウンドを求めて、Hモデルのスモールボディに650mmのロングスケールを採用し、ブリッジ位置を理想の所にするため13フレット接合を決断した。

 結果、マイルドな12フレット接合とタイトな14フレット接合の中間的な独特のサウンドを実現した。サイドバック材のハワイアンコアウッドもマイルドなマホガニー系とタイトなローズウッド系の中間的な材で、明るめのカラッとした音のイメージがあるが、このギターはボディやブレイシングなどの影響もありロングスケールにもかかわらずテンションはややゆるめで、中高音は立つがマイルドな傾向が強く、倍音も豊かで独特な粘りのある柔らかいサウンドに仕上がっている。

 購入時に付いていたシャーラーペグはヘッド厚が薄めのためポストが長く出ており、ナットからペグまでの弦の角度が浅く、かなり巻き数を増やしても角度が確保できなかった。このため2014年10月にペグをゴトー510のポストの高さ調整ができるHAPモデルに交換し、角度も適正となり、テンションもややアップしたためマイルドぎみの音に張りとヴォリュームが加わりコアらしさが出た。もとのシャーラーペグはワッシャーとボルトが交換されていて奇麗で、つまみボタンもエボニーに交換されており奇麗だったので引退させるのは惜しい、S-Yairiカスタム000のシャーラーがかなり錆びていたのでこれと交換した。