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Headway HF-408Re

 Headway(ヘッドウェイ)は日本でのフォークギターブーム終盤の1977年に設立された日本のギターブランドである。現会長の八塚恵氏はヘッドウェイ社設立前、林ギターという他社に製作を委託し、Riderというブランドでギター販売をしていた。自社内で良いアコースティックギターを製作したいと決意した八塚氏は林ギターの職人であった百瀬氏を1か月間の説得の後に技術部長として引き入れ、1977年4月にヘッドウェイ工場を設立した。Martinギターを分解して研究するなど様々な準備を経て、その年は3本の試作を作ったのみで、本格的な生産は1978年からとなった。百瀬氏の丁寧な仕事によるHeadwayギターは、当時新鋭メーカーとして注目されたが、80年代に入ってからのフォークブームの終焉とともに陰りを見せ、さらに1983年におこった2度の火災で工場の大半を消失しアコギ製作を断念した。その後、80年代半ばから工場を再建するも90年代後半まではブームに乗りRiverheadやBacchusというブランドのエレキギター製作に専念する。エレキ分野でも成功し、90年代後半には火災での損失を回収し、80年前後の勢いを取り戻しつつあった。

 1977年から83年までの6年間だけ発売されたHeadwayアコースティックギターのユーザーが集うHeadwayファンサイトが90年代後半に開設された。そこの掲示板で、エレキギターで成功し、百瀬氏もまだ社内にいるのなら、再びHeadwayアコースティックギターを製作してほしいという声が高まっていった。これを受けて、サイト管理者がその旨を会社に伝え、八塚氏と百瀬氏が再び立ち上がった。エレキ製作に並行してアコギ製作を始め、1999年末にHD-115の復刻モデルが発売された。16年ぶりにHeadwayギターが復活したのである。1995年あたりからアコギブームも徐々に復活しており、その波にも乗ってHeadwayギターは再び脚光を浴びていった。

 百瀬恭夫 (ももせやすお)氏は昭和19年生まれ、18歳で家具職人となり、20歳から弦楽器製造を始める。25歳からギター製作に専念し、32歳でヘッドウェイに入社。70歳を超えた現在も日本のアコースティックギターの名工として製作を続けている。

 復活から8年後の2007年、Headwayギターは30周年を迎え、それを記念して30thアニバーサリーモデルが限定発売された。今までの代表モデル9機種を復刻した各50本限定のリイシューモデルである。記念モデルということもあり、材なども上質なものを使い、百瀬チーム渾身の作である。百瀬氏はHeadwayギターにおいてレギュラーラインから退き、フルオーダーのカスタムモデルのみを製作することとなっていた。
 そして2019年現在のHeadwayギターは、マスタービルダーの百瀬氏および安井氏・降幡氏が個人で受注製作する45~160万円の「HEADWAY Customshopシリーズ」、ベテランビルダー数名の飛鳥チームが作る20~50万円の「Aska Team Buildシリーズ」、通常ラインで作る20~30万円の「Standardシリーズ」(ここまでの3シリーズが長野県松本市で製作されている)  さらに、アジアで製作しフレット・ナット・サドルなどの最終セットアップのみを日本で行った8~16万円の「Japan Tune-upシリーズ」、中国で製作している2~6万円の「Universeシリーズ」の5シリーズに分かれている。

 Headway HF-408Re は2007年に発売された30周年記念のリイシューモデルの第3弾として50本限定で発売された。家の近くにある中古ギター専門店にミニギターを見に行ったとき、壁に掛けられたこの000-18スタイルのHeadwayギターがキラリーンと光って呼びかけていた。店主は百瀬氏作の復刻版50本限定モデルだと言う。材も作りもしっかりしており、多少の打痕はあるが9年ものとしては綺麗な方である。値段もなかなかリーズナブルである。弾いてみると、コーティング弦が張られており、弦高が低すぎで強めに弾くとビビってしまうが、その中にも芯があり、レスポンスが非常に良い。今まで弾いたHeadwayギターのやや硬質なイメージとは異なる、まろやかなのにスコーンと通る音色であった。ショートスケールでテンションも緩めのため非常に弾きやすい。レスポンスが良い分、音の深みは少ないが、値段を考えるとそこまでは要求できない。サドルを上げて弦を交換した音を予想してみると、なかなか良い感じになるであろうと予測できた。

 気持ちを落ち着かせて一旦家に帰り、このギターの詳細をネットで調べてみるとトップがイングルマンスプルースであった。これはスプルースの中でも最も軽く柔らかいもので、弾いた時のまろやかな印象も納得できた。ちなみに、サイド・バックがマホガニーである000-18スタイルのトップは、シトカやアディロンダックが多く、イングルマンやジャーマンは作例が少ない。アニバーサリーモデルとはいえ定価が15万円台なので、店主の言う百瀬氏個人の作ではなく、弟子である現飛鳥チームの作であろう。しかし誰の作であろうが、価格を超えた音のギターである事は間違いない。確認後すぐに買いに行った。弦高を上げたかったので、サドル材をもらって帰って家で作り、交換した。全体をクリーニングし弦を交換すると、倍音は少なめであるが分離も良く、予想どおりの音を奏でてくれた。